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金沢地方裁判所 昭和48年(む)210号 決定

申立人 村山和弘

主文

司法警察員が昭和四八年六月九日金沢市西金沢四丁目一八三村山和弘宅でなした本件各差押処分中、別紙差押品目録記載の5、14の各物件に対する差押処分を取消す。

申立人のその余の請求をいずれも棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨及び理由は右申立人作成の準抗告申立書記載のとおりであるからこれを引用する。

二、(1) 一件記録によれば、昭和四八年六月九日午前八時五三分から同一〇時三五分まで司法警察員岩城蕃らは金沢市西金沢四丁目一八三村山和弘方において金沢地方裁判所裁判官田中清の発した捜索差押許可状に基づき別紙差押品目録記載の物件を差押えたこと、及び右許可状には被疑者不詳に対する暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件につき、「金沢市西金沢四丁目一八三、村山和弘方居宅及び付属建物」を捜索し、「赤ペンキ原液、同容器、DNTうすめ液、同容器、塗装用具赤色ペンキの付着した衣類、履物類、大城俊雄救援活動に関するポスター、チラシ、パンフレツト類、その他本件犯行に関する書類、メモ類」を差押えることを許可する旨記載されていることを認めることができる。

(2) そこでまず別紙差押品目録の各差押物件につき、その差押処分の当否につき検討する。

同目録の各物件の性状、記載内容数量を精査、検討するといずれの物件もそれ自体あるいは他の資料と綜合することによつて本件被疑事実の被疑者を間接的にではあるが推認させる資料となり得るしまた右被疑事実の事前計画性、組織性、犯行の動機、目的、背景などを推認させる資料となり得るから本件被疑事実との関連性は認められるといわなければならない。

もつとも差押物件と被疑事実との関連性が認められる場合であつても、被疑事実の内容、当該差押物の証拠価値、重要性、他の差押物の数量、その証拠価値、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度などを斟酌し差押の必要性のないと考えられるときには当該差押処分は許されないものと解すべきである。

これを本件につきみると、一件記録によれば本件差押処分は被疑事実の事前計画性、犯行の動機、目的などとともに被疑者を確定する資料を得るため行なわれたものと認められるのであるが、本件捜索差押は捜査の初期の段階で行なわれていること、捜索差押の結果被疑者を確定する有力な資料は収集されていないこと、本件事案の内容、性質などを併せ考えるならば、被疑者の確定はいきおい多数の間接的に推認させる資料によらなければならないところ、別紙差押品目録中番号5、14を除くその余の各差押物件についてはその物の性状、記載内容などに照らし個々の物件から被疑者の確定並びに被疑事実の事前計画性、犯行の目的、動機、背景などを推認することは必ずしも十分とは考えられず、従つて他の物件と相俟ちあるいは右各物件をもとに更に捜査を継続することによつて右推認を強める必要があるから、その意味において右各物件はそれぞれ証拠として重要な価値を有するといわなければならず、申立人の主張する差押によつて蒙る不利益の程度を考慮しても右各物件(但し前記5、14は除く。)の差押の必要性がないものとは言い難い。

ただ同目録中番号5、14については、その物の性質、記載内容からみてそれ自体としても又差押の必要性のある前記各物件に比べても前記推認の程度は著しく低く従つて証拠としての重要性は乏しいこと並びに差押えられた他の物件の内容、数量、被疑者以外の第三者である申立人の右物件に対して有する利益を勘案すれば差押の必要性は認められず従つて右物件に対する差押処分は失当といわなければならない。

(3) つぎに申立人は前記許可状の要点をメモしたい旨申出たところ捜査官がこれを拒んで捜索を開始したのは刑訴法一一〇条の精神に反する捜索である旨主張するのでこの点につき検討すると、一件記録並びに当裁判所の事実取調の結果によれば、なるほど司法警察員岩城蕃は申立人の右申し入れを拒絶したことが認められるけれども同時に右岩城蕃は捜索差押に先だつて申立人に対し前記居宅玄関において前記許可状をその内容を充分了知できる程度に呈示したことが認められる。そうだとすれば令状の呈示によつて捜索差押手続の公正を担保し且つ被処分者の利益を保護しようとする刑訴法一一〇条の目的は一応達成されているのみならず前記申し入れに対し捜査官がこれに応じなければならない法的根拠も見出し難い。従つて右申し入れを拒んで捜索がなされたとしてもその捜索は適法でありまた同条の精神に反するともいえない。つぎに捜査官が申立人の義父の立会を拒んだ点につき検討すると、一件記録並びに当裁判所の事実取調の結果によれば、本件捜索差押処分を行つた場所には申立人が居住し且つ同人が一部屋毎に行なわれた右処分に立会したこと、また申立人の義父は近隣に居住するにすぎないことが認められ、これらの事情と居宅の広さを考慮すれば立会人が申立人だけであつても立会の目的は達成できる状況にあつたものと考えられるから申立人の義父の立会を拒んだからといつて本件捜索あるいは差押が不当ないし違法であるとは断じ難い(その他一件記録によれば、犯罪(本件被疑事実、但し被疑者不詳)の嫌疑の存在したこと、本件捜索差押許可状に記載された場所に差押えるべき物が存在すると推認しうる状況にあつたことが認められるから申立人が自己の居宅につき捜索差押を受ける理由がないという主張は採用できない。)。

(4) なお申立人は刑訴法四三〇条二項に基づき本件差押処分の取消とともに差押物件の返還を求めているけれども同条項は押収処分の取消(変更)を認めているにすぎないからそれ以上に差押物件を留置している者に対してその返還を命ずる裁判を求めることはできないものと解すべきである(なお付言すれば現在差押品目録5、14を保管している司法警察職員あるいは検察官は右物件の差押処分は失当であつて許されないものであるから被押収者にこれらの物件を返還すべきである。)

三、以上の次第で別紙差押品目録番号5、14に対する差押処分は失当でありこの点に関する準抗告の申立は理由があるので刑訴法四三二条、四二六条二項により右差押処分を取消し、その余の申立は理由がないので同法四三二条、四二六条一項により棄却することとする。

(別紙差押品目録略)

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